鉄道旅行記・夕張駅三代

北海道の石勝線、夕張枝線終点の夕張駅は明治25年の開駅からこれまでに2度移転しており、現在の駅は3代目の駅である。全て列車で訪問したわけではないが、三代の駅全てを訪問したことがある。　初代夕張駅を訪問したのは、昭和59年のことである。夕張市教育員会の援助も受けて、夕張駅のすぐ前にあった、廃校になった小学校を利用した宿泊施設「ファミリースクールふれあい」で合宿をした。合宿の期間中、丁未風致公園で行われていたイベントに参加した。当時の夕張市はまだ現在よりかなり人口も多く、多くの人達で賑わっていた。　一日のスケジュールが終わった夜、外で汽笛の音がした。窓から駅を見ると、ちょうど最終列車で到着したディーゼルカーが車庫へと回送されるところだった。当時は夕張駅には駅員がいて、最終列車は夕張駅で夜を越して、翌朝の始発列車になる運用だった。　朝、空いた時間を利用して、駅まで歩いて行ってみた。特に時刻は調べずに行ったが、どうやら列車の出る時刻からは離れていたようで、駅で列車を待つ人はいなかった。それでもちゃんと駅員がいて、スタンプも置いてあった。
スタンプの図案には、メロン、石炭博物館、蒸気機関車、夕張岳と思われる山、そして風致公園の文字がある。メロンは言わずと知れた夕張メロン、石炭博物館は当時力を入れていた観光夕張の中心、風致公園も観光夕張の一環と思われるが、イベントのあった丁未風致公園である。蒸気機関車はすでに廃止されて久しかったが、炭坑夕張の象徴として、あるいは最後の蒸気機関車が走った地区として、あるいは既に公開が始まっていた石炭の歴史村のSL館にちなんで描かれたのではないかと思う。
当時既に夕張駅設置の元となった夕張炭鉱は閉山して久しく、かつて夕張駅を埋めていた石炭貨車はその姿を消していたが、炭坑から観光への合言葉の下、観光夕張の中心である石炭の歴史村の玄関口としての役割が期待されていたと思う。札幌からの観光客は、線形の悪さから直通のバスよりかなり時間のかかる鉄道の利用はあまり期待できなかったと思われるが、それでも札幌直通の列車が1日1往復は設定されていた。最盛期よりは大幅に人口は減ったものの、まだいくつもの炭鉱も操業しており、観光の発展も期待されていたころのことである。　初代夕張駅舎は、駅移転後は石炭の歴史村観光の事務所として使われていたが、夕張市が財政破綻した平成18年に解体された。合宿を行った「ファミリースクールふれあい」も閉鎖された。人口も一段と減ったが、夕張駅を訪ねた朝、途中ですれ違った高校生は今でも夕張で暮らしているのだろうか。
昭和60年、夕張駅は市役所裏に移転した。その2代目夕張駅には昭和62年に、今度は列車で訪問した。線路脇に簡単な仮設のようなホームがあり、不要になった貨車を改造した待合室があるだけの駅だった。駅前広場といえるほどのものもなく、何か路地裏のような場所だった。それでもそれなりの乗客がおり、雪の中を町の中へと散っていった。折り返しの時間があまりなかったので周囲を散策することもできなかったのでわからなかったが、市役所裏の町の中心といえる場所で、地元の利用者にとっては便利な場所への移転だったようだ。
平成18年夏、2代目夕張駅跡を訪ねた。施設はきれいに撤去されており、砂利が散っているのが線路跡であることを微かに伝えているだけだった。しかし、駅跡に当時からのものと思われる案内看板が立っていた。そこには、市役所裏に向かって線路が描かれており、その突き当り、丁度2代目夕張駅のあったあたりが白く塗りつぶされていた。
そして5年後の平成2年、市街地中心部よりぐっと手前のホテルマウントレースイ前に再度の移転をした。今度は市街の中心からは大きく外れ、スキー場の他は何もない場所への移転だった。陰りの見えてきた観光へのてこ入れを考えての移転だったろうが、市民の利用は激減したことだろう。もともと初代夕張駅は石炭の歴史村の入り口にあったのだから、観光客誘致への効果がどの程度かは予想できたのではないだろうか。
平成18年、3代目夕張駅を訪ねた。しゃれた外観の夕張駅は、巨大なホテルの前に小さく、そして静かにたたずんでいた。　列車の時刻からは外れていたため、駅は人気なく静まり返っていた。駅のキヨスクは平成10年に閉鎖されたとのことで、シャッターが下りていた。これだけ人気のない場所では、キヨスクを営業していくのは難しかっただろう。
平成18年に夕張市が財政破綻すると、維持費が出せないということで夕張駅のトイレも閉鎖になった。しかしこれ対しては援助が寄せられ、再開されることになった。また、JR北海道では夕張の応援のため、夕張駅までSL列車を走らせた。現在の夕張駅は1面のホームに1本の線路があるだけの駅で、機関車を付け替えることができないため、先頭に蒸気機関車、後尾にディーゼル機関車をつなぎ、折り返しの際はディーゼル機関車を先頭にして走らせたという。訪問した時には人気のなっかった夕張駅も、このときは多数のファンなどで賑わったようだ。　私が見てきたこの20年余りの間にも大きく姿を変えてきた夕張駅、今後はどのように変わっていくのだろうか。